プレカットという言葉をご存知でしょうか。
pre–––事前に、前にという言葉と、cut–––切る、切断するという言葉が組み合わさってプレカット(Precut)という言葉の語源になっています。
建築に関わりが薄い人にとっては馴染みが無いかもしれませんが、実はプレカットがセルフビルドの難易度を大きく下げてくれるかもしれません。
プレカットとは
従来、木造住宅の建築においては、建築現場に作業小屋を設けそこで木材を加工していた。現場に届く木材は、製材所で規格化された寸法に切断された製材品であり、実際の建物の各部位の寸法にあうように材を切断しホゾなどの仕口加工をするのは、現場の大工がやる作業であった。これに対しプレカットを用いた建築では、製材された木材はプレカット工場で加工される。建設現場には、必要な長さに切断済であるだけでなく、継ぎ手、仕口の加工まで施された材が配送され、現場で実施する加工は少ない。あらかじめ工場で加工済みのものを現場で組み立てることによって、工期の短縮、建築現場の資材置き場や作業スペースの縮小、大工の技量によらない均質な加工などのメリットが得られるので、現在の木造住宅建築においてプレカットは幅広く用いられている。
Wikipedia プレカットより
『大工』をイメージすると、一所懸命ノミをコンコンやっている場面が思い浮かぶと思います。まさにそのノミをコンコンやって木を刻む作業が、ホゾなどの仕口加工になります。家は、柱や梁など角材を縦横に組み上げて構成されますが、つなぐ部分は決して釘などで留めているわけではなく、木材が水平垂直に接する部分を凹凸の形状に彫り込みます。凸がオス、凹をメスとし、ピッタリ形状を合わせてスポッとはめます。
Wikipediaの引用にも記載があるとおり、昔は大工が大工小屋をまず建て、木を刻むところから始まっていました。仕口の加工精度の良否で家のクオリティが決まるので、大工の腕が昔はとても重要でした。
プレカット需要の発展
1960年頃に、プレカットの加工機が登場しましたが、当時は電動工具を固定するような手動機と呼ばれる機械だったそうです。1985年頃になると、CADが浸透し、現在の全自動システムと近くなってきましたが、加工できる範囲も限られており、工賃も高いためシェアも低かったそうです。
この頃サーボモータの普及により、機械の動きを数値制御(NC)することで、切削工具の刃先の位置を座標でコントロールできるようになりました。産業分野での革新につながった出来事ですが、建築においても例外ではありません。自動化の改良、発展が進みます。
1990年代に入ると自動化の進歩とともに加工精度、量産体制が発展し飛躍的にシェアを伸ばしました。多様で緻密な加工を要する仕口加工のニーズにピッタリ当てはまった瞬間から、瞬く間に大工仕事の一役を担うようになったのです。
セルフビルドにおけるプレカットのメリット
加工精度が高く、職人の手を必要としないプレカットのメリットを想像することは容易いですが、ことセルフビルドにおいてはメリットがどのように作用するでしょうか。以下3点がポイントです。
大幅な工期短縮を狙える。
セルフビルドでは、時間との勝負にもなってきます。楽しく自分のペースで進めていきたいところですが、ライフスタイルが変わらないうちに完成させる目的だったり、モチベーションを保つためにも、1年程度で住める状態までは持っていきたところです。自分の手で一本ずつ木を刻むのは忍耐力を要しますし、時間もかかります。
プレカット工場に仕口加工を依頼すれば、上棟に合わせて材の手配をできますし、その間に別の作業を行えます。
高い加工精度の材を手に入れられる。
セルフビルドをやりたいとしても、
経験が無くても、ちゃんとした家を作れるのかなあ。
なんて不安がよぎると思います。
素人が自分で家を作るからこそ『セルフビルド』という言葉があるので、おそらくセルフビルドをする人のほとんどが家を建てた経験がないでしょう。誰でも初めてのことには成功体験が伴わないため失敗するイメージを抱いてしまいます。もしビー玉が転がるような家を建ててしまっても、高いお金を出費する新築ですので、建った後ではやり直しも出来ませんし簡単に手放せもしません。
責任を持って全部自分でやりたい!と思うならチャレンジしてもいいですが、刻み加工に自信が持てないようでしたら、プレカットは打って付けです。
重労働を省ける。
セルフビルドで家を建てるとき、基本は自分一人の力で建てるようになるかと思います。家を建てる行為は、イベントみたいなものなので、興味を持った人が手伝ってくれるかもしれません。ですが、手伝ってくれる人も楽しみたい気持ちがメインです。持ってる熱量は自分には到底及ばないでしょう。
立派な家を作るために自分は必死に勉強してきたかもしれませんが、手伝ってくれる人はきっと建築に疎い普通の人です。自分と同じ作業をしてもらうわけにはいかないでしょうし、仕事が終わってから夜まで、早朝早い時間、大型連休にまで作業するのはきっと自分一人です。
“孤独のビルド”なセルフビルドで度々問題になるのが、自分一人で持てないものの扱いです。
浴槽やサッシなどの工業製品だと重くて大きい物もあるので、それら設置の際は誰かに手伝ってもらうようですが、内装材の大半は板状のもので構成されており、大きさもサブロク板の910mmX1820mmサイズが基準となるため、持つのに人の手助けを必要としません。
刻み加工を自分で行う場合、つい広い空間や見栄えのために欲が出て、梁せい(梁の厚み)の大きな材料を手配してしまうと、ひっくり返すだけでも一苦労です。
仕口加工をする場合、表に裏に返しながら加工をするため、重労働の割合が非常に高くなります。プレカットで事前に加工することで、上棟時のみイベントとして何人かに手伝ってもらえれば、その後はほぼ一人で作業できる内容になってきます。工事を始めて早々腰を痛めてはシャレになりませんので、テコで返すような重いものを持った自分を想像して天秤にかけてみて下さい。
今回のポイント
プレカットという便利なサービスを理解しておく。
プレカットで加工してある材料は、いわば木造軸組工法のキットみたいなものです。全部自分でやることにこだわるのではなく、分担できる部分は専門分野に任せるというスタンスで臨んだ方がセルフビルドを楽しめて良いと思います。
完全なセルフビルドを目指すのもいいと思いますが、プレカットで加工すればプラモデル感覚で家を建てられます。楽できるところは楽しちゃいましょう。
ちなみに…
プレカットを依頼する場合は、材料費とは別に加工賃が必要になります。坪単価で1万円程度が基準価格ですが、実勢は7000円〜8000円が実勢の相場だそうです。登り梁などで斜めに刃を入れるような特殊加工があるとプレカット工場とはいえ手刻みになるため、特殊工賃が発生します。そのため色々複雑に考えずシンプルな設計でプランニングすることが大切です。
主にメーカ相手に取引をするプレカット工場ですが、個人だから取引しないなんてことは特に無いようです。
加工の内容を決めるのは図面での打ち合わせになるため、土俵に乗るためにも最低限、図面への理解を深めておく必要があります。